風岡範哉税理士事務所
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相続税申告で最も重要なポイントは名義預金です。

相続税の税務調査は厳しい。申告件数の20~30%に税務調査が入り、80%の割合で追徴課税となります。

申告漏れというと、故人の預金を隠していたり、土地の評価をミスしていたりということを思い浮かべるかもしれません。
しかし、税務調査で申告漏れが指摘される財産で最も多いのは、土地や故人名義の預貯金ではありません。
俗に"名義預金"と呼ばれる、妻や子供など親族名義の預金なのです。

名義預金とは

形式的に妻や子供、孫の名義となっていますが、
実質的には夫(故人)によって管理、運用されていた
借名財産のことをいいます。

名義人が知らないような通帳は、相続税法上は名義人の財産とはいえないのです。

家族名義の財産は?

父(被相続人)の財産を整理していたところ、家族名義の預金通帳が見つかりました。
この家族名義の預金も相続税の申告に含める必要があるのでしょうか。
名義にかかわらず、被相続人が取得等のための資金を拠出していたことなどから被相続人の財産と認められるものは相続税の課税対象となります。
したがって、被相続人が購入(新築)した不動産でまだ登記をしていないものや、被相続人の預貯金、株式、公社債、貸付信託や証券投資信託の受益証券等で家族名義や無記名のものなども、 相続税の申告に含める必要があります。
国税庁「相続税申告のしかた」(平成26年分)

故人の名義でないから申告しなくて大丈夫?

次のどれか1つでも当てはまれば、相続税申告のとき、又は、税務調査のとき、必ず問題となります。

妻のケース

  • 専業主婦名義で多額の預金がある
  • 夫の預金を生活費として引き出して、余ったお金を妻の口座で保管している
  • 夫の預金から妻の預金へお金が移動している
  • 夫婦で同じ日に同じ金額で作った定期積金や定期預金がある
  • 夫婦共働きだが預金がごっちゃになっている

子供のケース

  • 無収入の子供に預金が多額にある
  • 本人は働いているが、勤務年数に比較して多額の預金がある
  • 親が払ってくれている保険がある
  • 贈与税の申告をしているが、現金をもらっていない

孫のケース

  • おじいちゃんが、孫のために積み立てをしてくれている
  • 将来の学費に使う目的で定期預金を用意してくれていると聞いたことがある
  • おじいちゃんが学資保険をかけてくれている
  • おじいちゃんが認知症を患っているが、毎年生前贈与を行っている

相続税の税務調査は厳しい。申告件数の20~30%に税務調査が入り、80%の割合で追徴課税となります。

その財産の資金は誰が出したのか?

その財産の資金源を、故人が出している場合、故人から名義人へ贈与された事実があれば名義人のものとなります。
しかし、贈与の事実がなければ名義を借用しただけとみなされ相続財産に該当します。相続財産に該当すれば、相続税がかかります。


資金源がはるか昔で、故人のものであるか、名義人のものであるかはっきりしない場合もあります。このような場合は、名義人の当時の収入状況や財産状況などを確認して、名義人にその財産を形成するだけの資力があったか否かが確認されます。


資金は誰が出したのかは次のようなポイントが確認されます。


  • 銀行や証券会社で口座を作ったのは誰か
  • 預金が作成された日に近い時点で故人の出金があるか
  • 預金作成時、名義人に資力はあったのか

贈与の事実はあったのか

その財産の資金を故人が出していたとしても、故人から名義人が贈与を受けたものであれば、それは名義人に帰属する財産となります。
しかし、預金の名義は変わっていても、贈与が有効に成立していない場合には、今もなお故人に帰属する財産として相続税がかかります。

贈与の事実があったのかといった証明が難しく。次のようなポイントが確認されます。


  • 名義人がその財産の存在を知っていたか
  • 贈与税の申告がされているか
  • お金は渡されているか
  • 贈与されたお金は費消されているか
  • 贈与契約書があるか
  • 贈与者の意思能力ははっきりしていたか

その財産の管理及び運用を誰がしていたか

故人が資金を出した財産が贈与されたというためには、今の名義人の管理状況も問われます。名義人が自らその財産の管理及び運用をしていなければなりません。


財産を管理及び運用していたかどうかは次のようなポイントが確認されます。


  • 預金の通帳や証書がどこに保管されていたか
  • 預金の引き出しに必要な印鑑はだれがもっていたのか
  • キャッシュカードを誰がもっていたか
  • 通帳の現金の出し入れを誰がしていたか
  • 投資信託など商品の組替えは誰が行っていたか

財産から生ずる利益を誰が享受していたか

預金であれば利息、株式であれば配当といったような財産から生ずる利益をだれが享受していたかという点です。
ただし、利息を受け取っていたからといって、元本も名義人に帰属するとは限りません。


  • 定期預金の利息が、自分が使っている口座に入っている
  • 株式の配当が、自分の使っている口座に入っている

名義性預金の判断フローチャート

税法では夫婦の預金は夫のものと考える

妻の預金が夫のものとなるケース

夫の給与で生活費をやりくりし、余ったお金を妻名義で貯金しておくことは一般的に行われています。いわゆる"へそくり"です。
この妻名義の預金について、相続税では、夫が自分の財産を、自分の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも珍しいことではないから、それが妻名義であることのみをもって妻のものとすることはできないと考えます。
もし、夫から「生活費で余ったお金は妻にあげる。好き使ってよい。」と言われていた場合、口頭による贈与があったといえるでしょうか。
これは、そのような口頭による贈与があったとしても、直ちにそれが贈与契約を意味して預金全額が妻の特有財産となるものとはいえないとされています。
また、妻名義の預金をしっかり本人が管理し、運用していたとしても、夫婦間においては、夫の財産を妻が管理及び運用をすることがさほど不自然であるとはいえないことから、これを殊更重視することはできず、妻に帰属するものであったことを示す決定的な要素であるということはできないとされています。

妻の預金が夫のものとならないケース

ただし、専業主婦の預金であっても、もともと妻のものであれば話は別です。


例えば・・・

・妻の実家から相続した財産である
・結婚前に働いていた預金を運用して増やしたものである
・自分の年金収入の蓄積である
・夫から生前贈与されたたものである
 などにおいては、夫の財産とみなされることはありません

税務署はすべてを把握している

税務署は、相続税の税務調査においては、故人名義の預金にとどまらず、家族全員の預金を職権で金融機関に照会し、残高や取引履歴を把握することができます。
申告された故人名義の預貯金が少なく、配偶者や子供、孫に多額の預金があれば、その家族名義の預金はどこから、どのように形成されたものなのかを確認します。
いうまでもなく、名義預金に該当すれば、故人の相続財産として追徴課税になるからです。

追徴課税をされるとどうなる?

税務調査によって、配偶者や子供といった家族名義の預金が追加になった場合、追加で納めることとなった本税に加え、以下のペナルティがかかります。

延滞税+過少申告加算税+無申告加算税+重加算税

延滞税

相続税が追徴課税となった場合、原則として、納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。
延滞税の割合は、納期限の翌日から2ヶ月までは原則年7.3%、2ヶ月を経過した以降は原則年14.6%となります。

過少申告加算税

延滞税に加え、追徴税額の10%(当初申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分、その超えている部分の15%)の過少申告加算税がかかります。

過少申告加算税

納税義務があるにもかかわらず申告をしていなかったことが、税務調査により発覚した場合、無申告となります。
この場合には、追徴税額の15%(50万円超の部分は20%)の無申告加算税がかかります。
故人の財産だけをみて基礎控除を下回っているから申告は不要だと思っていても、名義預金が加わることによって申告義務が発生した場合も当然無申告にあたります。

重加算税

財産を故意に隠ぺい又は仮装していた場合、追徴税額の35%の重加算税がかかります。
財産を隠ぺい又は仮装して無申告であった場合は40%となります。

重加算税の処分に納得がいかない方、ご相談ください!

重加算税は、財産の隠ぺい又は仮装を行った場合に課せられます。
ただし、重加算税を課すためには意図的に財産を隠した「行為」が必要とされます。
故人の財産を隠すため、死亡直前に銀行から引き出して、庭に埋めて隠した・・これは重加算税の対象でしょう。
しかし、名義預金となると話は別です。それぞれケースバイケースとなりますが、一般的には自分名義の預金があったとき、自分のものだと考えるのが普通です。故意に隠したわけではありません。したがって、名義預金の申告漏れがすべて重加算税の対象となるわけではありません。
そこに隠ぺい仮装の「行為」があったのか否かを判断する必要があります。

税務署は今、無申告事案に力を入れています。

納税義務があるにもかかわらず申告しなくて済んだのであれば、正直に申告した人がバカをみることになります。このように無申告事案は、納税者間の公平感を著しく損なうものですから、税務調査官は無申告事案の把握を積極的に行っています。
通常の税務調査に加えて、毎年、無申告と思われる方を対象に、年間で1000件弱の税務調査があります。
そのうち7~8割の割合で申告漏れが確認されています。
 申告漏れの遺産額としては、1件当たり平均1億円前後とされていますので、決して高所得者層だけが無申告調査の対象になるというわけではありません。


よくある質問

税務調査では何年分ぐらい通帳はみられるのでしょうか?

基本的には、金融機関に入出金の明細データがありますので、データがある限り見られます。

なぜ税務調査で机やタンスの引き出しや金庫を確認するのですか?

名義預金の管理の状況を把握するためです。
長男名義の定期預金の証書が、故人の使っていた金庫や机の引出から出てきたとします。この場合、故人が現物を管理していたり、本人はその存在を知らなかったことなどが推定できます。名義人本人が現物を管理していなかったり、存在を知らなかったのですから、贈与されたものといえない可能性が高いと言えます。
名義預金に限らず、故人の財産に申告漏れがないかどうかの調査でもあることはいうまでもありません。

名義預金に時効はないのですか?

故人から名義人に贈与されたものである場合、贈与税に時効はあります。
しかし、名義預金は贈与が成立していないから名義預金なのです。したがって、時効はありません。
故人が10年前に作った定期預金でも、20年前に作った定期預金でも相続財産に当たることになります。

名義預金について、ご理解頂けましたでしょうか?

税務調査の現場においては、税務調査官は、「故人は名義を借りていただけで、実質的に管理していたのは故人であるから、これは相続財産である」と指摘し、名義人である納税者は、「すでに贈与されたものであるから、名義人たる自分のものであって故人の財産ではない」と感情的に反論する場面がよくあります。
このような名義預金の判定は、預金を誰が管理していたといえるのか、生前贈与は有効に成立していたといえるのか、資金源はだれのものかといった点を客観的な証拠を積み重ねて総合的に判断することが求められます。
名義預金の影響で、将来予想外に相続税が大きくなったり、また申告不要だと思っていたにも関わらず申告が必要となったりします。相続税がかかりそうな方は、早い段階から名義預金と指摘されないための対策が必要となります。

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